SDGs Design
International Awards 2020
2回目の開催となる今回は 「パンデミックを乗り越え、進化するためのデザイン」をテーマとして設定しました。本年度は、世界15ヶ国の高等学校、専門学校、大学より184件の応募がありました。
この未曽有の危機に、今すぐにでも対応できるアイデアや、afterコロナ時代も見据えた生活や仕事の仕方、社会システムや国際連携のあり方提案など、広範囲にわたる様々なアイデアが寄せられました。
2020年11月10日に開催されたファイナリストによる最終プレゼンテーション及び表彰式は、新時代のSDGs Design International Awardsに相応しい、数万人規模で視聴できる完全オンライン形式で実施しました。
オンラインで行なわれたファイナリスト5組のプレゼンテーションは、若い感性にあふれ、パンデミックにすぐにでも応用できる素晴らしい作品ばかりでした。当日、厳正なる審査の結果、以下の通り各賞が決定しました。
募集テーマ
パンデミックを乗り越え、
進化するためのデザイン
世界中の人々に危機をもたらしたパンデミックを乗り越えるためのデザインアイデアを募集します。
SDGsの17の目標に沿って、マスクや病棟などの具体的なデザインから、新しいコミュニケーション手段や変化する状況を正しく把握するための情報デザインなどのソフトの領域、生活必需品配送の新しいサービス、医療システムや、社会保障制度などの社会システムのデザインなど、私たちみんなが直面している課題を解決するアイデアを広範囲に公募します。
現在の新型コロナウイルス感染は、グローバルなレベルで全ての人々に大きな課題を突きつけ、だれもが自分ごととして捉えざるをえなくなっています。例えば、大学が閉鎖された時に、どう学べば良いのでしょうか。高齢者と同居している人たちはどのように感染リスクを回避できるのでしょうか。このように自分の身近なところから発想を広げて解決策を考えてください。
また、この危機をきっかけに人類のこれまでの生活様式を変えるイノベーションにつながるようなアイデアが生まれる可能性もあります。これまでとまったく違う、国際連携、仕事の仕方、社会制度のデザインなどのデザインも募集します。
賞 金
最優秀賞1組30万円
パンデミックという困難な局面を乗り越え、さらに進化するために、独創的な視点で課題を設定、画期的なアプローチで目的を達成し、社会や環境に長期的にポジティブな影響力をもたらす最も優れたデザイン提案を表彰します。デザインの完成度や社会実装の可能性も重視します。
優秀賞4組各8万円
- Best Innovation賞
- 今までになかった新しい価値を社会にもたらす独創性に富んだ、画期的なアイデアを表彰します。
- Best Impact賞
- 解決しようとする具体的な課題に対して優れた効果があり、社会や環境を変革する大きな影響力が期待されるデザイン提案を表彰します。
- Best Quality賞
- 美しさ、機能性、信頼性、持続可能性に優れた完成度の高いデザイン提案を表彰します。
- Best Feasibility賞
- 社会における有用性や運用方法など、実装のためのしくみがよく考えられた実現可能性の高い提案を表彰します。
審査員
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[ 審査員長 ]
池田 美奈子
九州大学大学院
芸術工学研究院
准教授 -
[ 審査員 ]
Kun-Pyo Lee
香港理工大学
デザイン学部
学部長 -
[ 審査員 ]
田中 一雄
株式会社GKデザイン機構
代表取締役社長/CEO -
[ 審査員 ]
Rupesh Vyas
アールト大学メディア学部
教授 -
[ 審査員 ]
紫牟田 伸子
株式会社Future Research Institute
代表取締役 -
[ 審査員 ]
太刀川 英輔
NOSIGNER
代表
最優秀賞
死者を送る船
Viany Sutisna, Bonaventura Kevin Satria, Faith Lim Rui En
(National University of Singapore)
インドネシアではCOVID-19 による死亡者の遺体はすぐに簡易なプラスチックで覆われ、何メートルものセメントの下の地面に埋葬される。
本作品は、コロナウイルスが私たちから奪ったものの中で、「大切な人に最後の別れを告げられない」ことに着目して、遺族が葬儀の際に顔を見ながらお別れを言うことができる「船」のデザインを考案した。「船」は密閉型のポッドの形をしており、内側にはロープのような層が重なって遺体を安全に包み込む。ポッドには透明な窓がつけられ、遺族が葬儀の際に顔を見ながらお別れを言うことができる。内側の層は吸収性のある素材で体液などの漏れを防ぎ、クラスター感染のリスクもなく葬儀の慣習を再開することが可能になるという作品だ。
優秀賞
- Best Innovation賞
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アレーテ移動菜園濰坊市第9地区の移動しながら野菜を売る地域活動車両
Huang Zhilin, Shen Sixian, Wang Qi
(Donghua University)本チームは、上海の文化とも言われる「小菜市場」において、今回のパンデミックにより入り口が封鎖されたことで、高齢者が野菜を購入しにくくなっている現状に着目した。リサーチの結果、そのコミュニティ内の相互協力や、対人コミュニケーション力が弱まっていることがわかった。そこで、彼らは「アレーテ移動菜園」という、野菜の販売、地域の清掃、そしてコミュニケーションを促すことを目的とした地域活動車両を考案した。
審査員長講評
パンデミックは地域文化にも大きな影響を及ぼしました。上海の伝統的な生活文化である朝から野菜を市場に買いに行くという日常が困難になったことで、特に高齢者の社会的なつながりが遮断され、地域の相互扶助の習慣やコミュニケーションが急速に希薄になってしまったことに着目しています。移動式の菜園のデザインによって野菜市場を復活させようというこの提案は、買い物の利便性を提供するだけでなく、むしろ失われてしまった人々のコミュニティを再建し、世代を超えた地域のつながりを活性化しようとしている点で社会性のある優れたデザイン提案となっています。
- Best Impact賞
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アナンディ学習空間
Shruti Umesh Chakke
(National Institute of Design)本作品は、コロナ禍にインドで特別支援の必要な生徒のわずか55%のみしか学校に通うことができていない問題に着目し、認知障害を抱える子どもたちが遠隔での学習体験を可能にし、同時に保護者にも家庭内においても彼らへの学習のサポートができるアプリを考案。本アプリは、両親とともに楽しく学ぶことができる「学習空間」を提供。パンデミックであっても子どもたちの精神の安定を保ち、保護者のストレスも軽減できる提案であった。
審査員長講評
このデザイン提案は、もともと認知障害のある子どもたちの学校のために、校庭のリアルな場所をインタラクティブな学びの空間に変えるデザインとしてスタートしました。ところがパンデミックが発生し、子どもたちが登校できなくなったことから、学びの場をリアル空間からデジタル空間にシフトして、教育アプリのデザイン提案となりました。その結果、リアル空間でのアイデアがこのアプリのデザインにも反映されることになり、学びの質を高めています。インドでは、必ずしも家庭内で子どもに勉強を教える環境がない場合も多く、このアプリは親に代わって、あるいは親を支援することで、認知障害のある子どもに学びの機会を保証しようとしています。このような困難な問題に真摯にアプローチしたSDGsにふさわしい提案となりました。
- Best Quality賞
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医療従事者保護のための
サービス設計個人用防護服の基準および寄付機会の
プラットフォームFang Yuchan, Zheng Ce, Gu Tianrun, Shen Yiwen, Luo Song
(TongJi University)本作品は、中国のCOVID-19患者7万7262人のうち4.4%にあたる3387人(2020年2月24日時点)が、防護服の不足により医療施設で働く医療従事者などであったことを明らかにし、その一因が、民間の医療現場において防護服の調達プロセスが遅すぎたことであることに着目した。非営利団体が個人用防護服(PPT)をこれらの医療機関に寄贈しているが、臨床医学的な基準を満たしているものは非常に少ない。そこで彼らは、民間の寄付者と医療現場での需要と供給の釣り合いをとりつつ、未だかつて経験のないこの状況下、医療スタッフにタイムリーに必要なものを提供するための情報サービスを確立することを目指している。寄付者、サプライヤー、政府、物流会社、メディア、家族、病院、医療従事者など、様々なステークホルダーのサービス連携に連動したアプリを設計・開発を提案した。
審査員長講評
パンデミック下の医療機関で深刻だった防護服の不足の問題に着目し、その原因を突き止めるとともに、非常に綿密なリサーチを重ね、信頼できるサービスデザインプロセスによって実現性のある効果的なソリューションを提案しています。パンデミックのなかで、問題発生の直後にすぐに活動をスタートさせるという迅速な行動力と的確な判断力には、優れたデザイナーのマインドが見て取れます。防護服を必要としている医療機関と、貢献したいと考えている一般の人々の間の祖語やミスマッチの原因を特定し、それを解消する包括的な思考から導き出した、必要なものを必要とする人に着実に届ける仕組みは、誠実で確実な優れたサービスデザインです。
- Best Feasibility賞
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ハーイ!ジェスチャー小学生の子どもたちに合わせた
感染予防教育のサービス設計Choi Yonggen, Zhang Yimeng, Fan Wenyi, Chen Yinglu, Li Yu
(TongJi University)本作品は、小学生(主に1年生から3年生)の子どもたちが感染症を完全には理解しておらず、予防策の理解も難しいことに着目した。創造や遊びが好きで、身体の動きが多いという子どもたちの特徴を活かし、より参加型で楽しく感染予防教育ができるよう、小学校低学年の児童を対象とし、ジェスチャーを用いた学校での感染予防教育を行うサービスデザインを考案。本チームは、子どもたちをよく観察し、教師とも協力。WeChatアプリを通じてボランティアを募集し、児童が知識を共創することに関わる教育戦略や教材を設計、制作した。
審査員長講評
友達と遊びたい盛りの活発な小学校低学年の子どもに、ウィルス感染予防について理解させるのは難しいことです。このデザイン提案は、子どもの自然な振る舞いに着目し、窮屈な思いをさせずに楽しく感染予防を学び、実行できるように丁寧に考えられた教育サービスです。教育コンテンツだけでなく、社会実装するための大学生のボランティアの募集からトレーニング、実施までをスムーズに実現する一連のしくみをデザインし、小学校で検証実験を繰り返し、その効果を確認しています。しっかりしたデザインプロセスを経た実現性のある、子どもの視点に立った優れたデザインです。
審査員長講評
人々が死とどのように向き合うかは普遍的であるとともに、固有の文化的な問題でもあります。世界中が巻き込まれるパンデミックにあって、死は合理性や機能性だけではなく、文化に根差した人間性に対する深い配慮が求められる難しい問題です。このデザイン提案は、人間の尊厳に正面から向き合うと同時に感染のリスクを排除し、さらに環境にも配慮した素材や構造を詳細に検討し、プロダクトとしての機能性も追求しています。非常時において、後回しにされがちな心の問題に、プロダクトデザインからアプローチした優れた提案です。